『A2日目、そして・・・?』

-ルーブル美術館の前で-

 尖塔から描き始めて、だんだんと下の方書き始める。ところが、建物の下まで入らないではないか。自分のデッサン力の無さに鉛筆を折ってしまいたい衝動に陥った。写生をいったん止め、どうしてなのかを考えた。えい面倒だ、まずは写真を撮ろうとカメラを取り出しファインダーをのぞいた。すると、ちゃんと全貌が見える。自分の目で見た瞬間、そのあまりにも大きなスケールと美しさに圧倒され、我を忘れていたのだった。

 何時も授業で子供たちに「手枠」を作って対象物を観なさい、手枠を近くに寄せてみると全体が、遠くにやると部分が見える?などとあれほど言っていたのに、このときばかりは自分の頭の中からすっかり消えていたのである。(時差ボケかな?)そんなことやらで時間も経ち、まずはカメラで手当たり次第取りまくった。早くしないと暗くなってくる、冬は日没が早い(酒飲みには都合がいいが)。

 次の日、朝飯を終えホテルの窓から見える風景を、と暗いなかカーテンを開けたら窓越しに食事中の家族が見えた。案外質素な食卓にフランス人はいつもこのようなものか、と来る前のイメージとの違いに少々寂しさのようなものを感じた。

 観光はキャンセルして早くモンマルトルへ行こうとタクシーに乗ったが、これが大きな間違い。ちょうどラッシュアワーの時間帯だったのだ。地下鉄にすればよかった、と反省しながら丘に着いたときはすっかり明るくなり、すでに観光客でいっぱいだった。それでも気を取り直して二、三枚スケッチした後、テアトル広場に行った。数十人の絵描きたちがまるで適当につくった絵を周りに並べ、イーゼルを立てて描いている。昔はここから有名な画家たちが生まれたのだが、今は祖国へ帰れないその日暮らしの無名の絵描きばかり。描くのは観光客相手のお土産絵と似顔絵がほとんどである。その中に日本人の絵描きがいたので、売れますか?と尋ねたら、「なかなか売れません。買ってくれませんか?」の返事。大変なのだ、何とか誰かに認めてもらおうという必死な姿を感じた。自分はそのとき教師をやっていて良かったと正直思った。

 前日観た張り付いた美しさに今日も浸ろうと思ったのだが、人々の雑踏が気になり写真を撮って丘を降りる。セーヌ河沿いを歩き、途中、印象派美術館に立ち寄った。ロートレック、モネ、マネ、ゴウギャン、セザンヌ、ゴッホ、ルノワール等々、身近な作品が展示されているのでじっくり観たいと思ったが、ここも観光客でいっぱい。次の機会に必ず、と自分に約して早々に退出。セーヌ河を入れてポンヌフ、シテ島を描く。

 疲れたので『エマニエル夫人』(もちろんノーカット)を見に映画館に入ったのだが、ろくに見もせず眠ってしまった。目が覚めた時には映画は終わり、館内は明るくなっていた。強張った背を伸ばしてあたりを見渡すと・・・、これは何と!・・・・・・。
                                                 (つづく)

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